※本コラムは、心理学者および臨床心理士によって、日常に役立つであろう心理学の知識を、毎月連載ものとして記載しています。無断の転載や複製は遠慮願います。
理論の特徴 | パーソナリティ論 | ||||||
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S.フロイト | 因果論(心的決定論) | 行動は、過去のできごとに原因がある。過去のことが判明すれば、症状は消える。 | 小児期体験の重視 | 抑圧についての考え方 | 無意識の重視 | 欲動論 | 心的装置論ほか |
A.アドラー | 目的論 | 行動は、未来の目的に向けてなされる。症状は、過去には関係がない。 | 劣等コンプレックス | 個人は「分けられないもの」 | 力への意志 | 補償作用 | 男性的抗議ほか |
かなり、大雑把なご紹介になりましたが、フロイトは、現在、2種類の全集も出ていて、その思想(あえて思想といいますが)の全貌にふれることができます。また、アドラーという人物は、もともと社会に目を向け、教育にも関心をもって活動してきた、草分け的存在でもあるため、このところ大震災などの災害の中で、かれの共同体感覚(自分は共同体の一部である)や、ライフスタイル(個人の考え方や行動のクセを知って相互理解をしていく)などの概念でもって、自分を知り他者を理解していくことの支援に一役買っているといえるでしょう。アドラー関連の書籍では、『嫌われる勇気』(岸見一郎著・ダイヤモンド社刊)や『アドラーの生涯』)(岸見訳・金子書房刊)などが参考になるとおもいます。
さて、表からわかるように、フロイトの場合、過去を探ろうとしたのに対し、アドラーは未来志向でした。アドラーは、「今悩んでいる症状がもしなかったら、何をしたいと思いますか?」と未来についてよく尋ねたといいます。このことばが、アドラーが「目的論」の立場に立っているという特徴をあらわしています。
この症例は、ひとつの「事実」に違いないはずなのに、フロイトとアドラーの、どちらの理論でも説明されうるのでした。(なお、『ユング心理学入門』には、この症例についてその概要がもっと詳しく紹介されています。)
このようなふたりの考え方をみていたユングはどう考えたのでしょう。ユングは、彼の死後出版された『自伝』のなかで、こう語っています。
「一方では性的解釈、他方では力の衝動という教義のために、私は数年にわたって類型学(タイプ論)の問題を考えることになった。」と。
ところで、そもそもユングは、対極にある異なった両面をともに受け入れてゆくにはどうしたらよいか、という態度を、何事に当たるにも持っていましたから、二人の異なる主張を説明するにどう考えればいいのか、を考え尽くそうとしたのでした。「タイプ論」による性格研究の大きなきっかけとなりました。
ところで、ユングは、フロイトとアドラーを、「内向」「外向」の違いと考えてみています。さて、皆さんは、ふたりのタイプをどう考えますか。
(以下、次号へつづく。)